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長野地方裁判所 昭和42年(行ウ)1号 判決 1968年3月26日

長野県上田市大字上田四、七八八番地

原告

株式会社名音電機

右代表者代表取締役

斉藤直人

右訴訟代理人弁護士

阿部尚平

県長野市柳町一四番地

被告

長野税務署長 大崎福彌

右指定代理人

朝山崇

鈴木智旦

柏原光雄

徳永輝夫

福山正衛

北原健次

右当事者間の法人税更正処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告の求めた裁判)

一、被告が原告に対し、昭和三九年六月三〇日、原告の昭和三七年九月一日から昭和三八年八月三一日までの事業年度の法人税につきなした更正決定〔昭和四一年六月二八日裁決により所得金額三四九万二〇三八円、法人税(本税)額一一五万九〇八〇円に減額されたもの〕中所得金額につき一七二万〇三四八円、法人税(本税)額につき五〇万二八九〇円を超える部分を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告の求めた裁判)

主文同旨の判決。

第二、主張

(請求原因)

一、原告は電気器具類の販売を営む株式会社であるが、昭和三七年九月一日から昭和三八年八月三一日までの事業年度法人税につき、所得金額を一三〇万二九四九円、法人税額を三六万五一五〇円として確定申告をなしたところ、被告は昭和三九年六月三〇日、原告の右事業年度の所得金額を三八六万〇三四八円、法人税(本税)額を一二九万八六四〇円と更正し、その頃原告に対しその旨の通知をなした。

二、そこで原告は、右処分を不服として同年七月二九日被告に対し異議の申立をなしたところ、被告から同年一〇月二四日これを棄却する旨の決定を受け、さらに同年一一月二日関東信越国税局長に対し審査請求をなしたところ、同国税局長は昭和四一年六月二八日、前記更正決定中所得金額につき三四九万二〇三八円、法人税額につき一一五万九〇八〇円を超える部分を取消す旨の裁決をなし、同月二九日原告に対しその旨の通知をなした。

三、しかしながら原告の本件事業年度の所得は、別表の原告の主張額のとおり一七二万〇三四八円であり、これに対する法人税額は五〇万二八九〇円であるから、本件更正決定(前記裁決により取消された部分を除く。)のうち所得金額および法人税額につき右金額を超える部分は違法であって取消されるべきである。

(被告の原告主張事実に対する答弁ならびに主張)

一、請求原因一、二の事実はいずれも認める。同三の事実中別表の1、2および4の各事項についての原告の主張額はいずれも認めるが、その余の事実はすべて否認する。

二、原告の本件事業年度の所得は、別表の被告の主張額のとおり三四九万二〇三八円であり、これに対する法人税額は一一五万九〇八〇円であるから、前記裁決により本件更正決定の一部取消がなされた後においては、右更正決定に違法な点はない。そして、右所得計算上、原告。被告間において争いのある事項についての被告の主張は次のとおりである。

(一) 不動産売却代金計上もれ

(1) 原告は昭和三六年三月六日訴外斉藤直人名義で、別紙物件目録記載の物件一ないし三(以下単に物件一ないし三という)を訴外平和土地建物株式会社から、大二土地建物こと訴外高本一雄を仲介人として、合計金五二五万円で買受けその所有権を取得した。

(2) 昭和三七年一一月二六日原告は前記訴外会社に対し、物件一(宅地)および二(居宅)を合計金一九三万円で売却した。

(3) ところで、登記簿上には、訴外斉藤郁が前記会社から昭和三六年三月六日付売買を原因として物件一、二の所有権を取得した旨の記載があり、また証書上には、昭和三七年一一月二六日斉藤郁および右会社間で右各物件につき売買契約がなされた旨の記載がある。

(4) しかし、物件一ないし三についての前記買受代金五二五万円、高本一雄に対する仲介手数料九万円および登記費用一六万八〇五〇円がいずれも原告によって支払われていることからみて、右斉藤郁の名義は単に形式的に使用されたにすぎず、その権利義務の実質上の帰属者は原告である。

(5) 従って、原告は昭和三七年一一月二六日に物件一および二を合計一九三万円で売却しているものであるから右代金は全額原告の本件事業年度の益金として計上されるべきものである。しかるに、右代金については益金として計上されていないので、被告はこれを不動産売却代金の計上もれと認めた。

(二)、未払税金損認定

前記のとおり、原告は昭和三六年三月六日に物件一、二の所有権を取得したが、これらについての不動産取得税および固定資産税の未納額一万八三一〇円は本件事業年度の損金に計上されなかったので、被告においてこれを損金に算入した。

(原告の被告主張事実に対する答弁ならびに主張)

一、被告主張の二・(一)・(1)の事実中、物件一についてその主張のような売買がなされたとの事実は否認するが、その余の事実は認める。

同(2)の事実中、物件一の売買についても原告がその売主であるとの事実は否認するが、その余の事実は認める。

同(3)の事実は認める。

同(4)の事実中、物件一ないし三について原告が被告主張のような支払をなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同(5)の事実中、物件一、二の代金合計一九三万円が益金に計上されていないこと、被告が右金額を不動産売却代金計上もれと認定したことおよび右金額中後記の一四万円は益金に計上されるべきものであることはいずれもこれを認めるが、その余の事実は否認する。

二・(二)の事実中、原告が物件一の所有権を取得したとの点は否認するが、その余の事実は認める。

二、物件一は、次のような事情で、斉藤郁において昭和三六年三月六日前記訴外会社より買受、これを昭和三七年一一月二六日同会社に一七九万円で売却したものである。

すなわち、昭和三六年三月六日の原告と訴外会社間の物件一ないし三についての前記売買において、原告が訴外会社から代金五二五万円の外に裏金として一〇〇万円の出損を要求された際、右全物件につき契約を成立させる必要から、原告会社の代表取締役斉藤直人の妻郁が訴外会社より右金額に見合う物件一を買受けることにして、右郁が右一〇〇万円(うち三八万円は右直人より調達した。)を訴外会社に支払った。従って、郁はこれにより右物件一の所有者となっものであり、従ってまた、その後昭和三七年一一月二六日になされた物件一および二の売買に際しては、物件一の売主は郁であり、その売却代金は当然同女に帰属すべきものである。

なお、同女は物件一を所有していた間、これを賃料月五〇〇〇円で原告に賃貸し、その収入を同女の不動産所得として上田税務署長に申告しており、また昭和三八年一二月一七日に川口税務署長に対し、前記昭和三七年になされた物件一の売却に基づく譲渡所得として金二七万〇一七五円を計上した修正申告書を提出した。かかる事情からしても、原告の前記主張は理由があるものというべきである。

ところで、右昭和三七年の売買に際しては、物件一、二が一括して代金一九三万円で売却された。しかして物件二は、右売却当時既に建築後数十年を経ており、その取壊しのために却って費用を要する程の建物(実測建坪七坪二階七坪)であり、その価格は高く見積っても坪当り一万円合計一四万円程度であって、これよりすれば物件一の代金は少なくとも一七九万円ということになる。

従って、不動産売代金計上もれとして被告の主張する一九三万円のうち右一四万円を超える部分は理由がない(なお、原告が物件二の売却代金一四万円を益金として計上しなかったのは、右物件が前記郁の所有に属するものとの誤信に基づく。)

(被告の原告主張事実に対する答弁)

原告主張事実中、斉藤郁が裏金一〇〇万円を訴外会社に支払い、物件一を買受けたとの事実、同女が原告に右物件を賃貸したとの事実、物件二が原告主張のような建物であって、その価格が一四万円程度であり、従って物件一の代金が一七九万円であるとの事実はいずれも否認する、その余の事実は認める。但し、前記郁が不動産所得として上田税務署長に申告した所得金額の中には原告主張の如き賃料は含まれていない。また、郁が川口税務署長に提出した修正申告書に記載されている譲渡所得は物件一、二の売却代金に関するものである。

第三、証拠

原告は、甲第一号証の一、二、第二号証、第三号証を提出し、証人斉藤郁の証言を援用し、乙号各証の成立(第一号証ないし第三号証は原本の存在も)はすべて認めると述べ、被告は、乙第一号証ないし第四号証を提出し、証人高本一雄、同鎌倉勝の各証言を援用し、甲号各証の成立はすべて認める、と述べた。

理由

請求原因一、二の事実ならびに三の事実ならびに三の事実中別表の1、2および4の各事項についての金額が原告の主張額どおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、原告の本件事業年度の所得には、不動産売却代金一九三万円の計上もれがあるとの被告の主張について判断する。

昭和三六年三月六日に原告と平和土地建物株式会社との間で、高本一雄を仲介人として物件一ないし三についての売買の交渉がなされたこと、同日原告が物件二、三を右訴外会社から買受けその所有権を取得したこと、物件一ないし三についての買受代金として五二五万円、訴外高本に対する仲介手数料として九万円および右各物件についての登記費用として一六万八〇五〇円がいずれも原告によって支払われたこと、昭和三七年一一月二六日に物件一、二が代金総額一九三万円で前記訴外会社に売却されたことおよび物件二の売主が原告であったことはいずれも当事者間に争いがなく、これらの事実と原本の存在ならびに成立に争いのない乙第一号証、成立に争いのない乙第四号証、証人高本一雄、同鎌倉勝の各証言とを総合すれば、前記昭和三六年三月六日の売買に際し、原告が訴外会社から物件一を物件二、三と共に代金総額五二五万円で買受けたこと、その後昭和三七年一一月二六日の売買に際し、原告が訴外会社に右物件一を物件二と共に代金総額一九三万円で売却したことが認められる。右認定に反する証人斉藤郁の証言は前掲各証拠に照らしてたやすく信用できない。

なお、登記簿上には斉藤郁が訴外会社から昭和三六年三月六日付売買を原因として物件一、二の所有権を取得した旨の記載があり、また証書上には昭和三七年一一月二六日斉藤郁および右訴外会社間で右各物件につき売買契約がなされた旨の記載があることは当事者間に争いがないが、前記認定の事実に徴するときは、これらは単に形式上斉藤郁の名義をもってなされたにすぎないものと解されるから、これらの事実の存在はいまだ前記認定を左右するにたりず、他に前記認定を覆すにたりる証拠はない。

そうであれば、前記売却代金総額一九三万円は原告の本件事業年度の益金として計上されるべきものである(ただし、一四万円の限度においては当事者間に争いがない)といわなければならない。そして、原告が、物件一、二についての不動産取得税および固定資産税の未納額一万八三一〇円を本件事業年度の損金に計上していなかったことは当事者間に争いがないので、これを控除すると、原告の本件事業年度の所得金額は三四九万二〇三八円となり、これに対する法人税額は一一五万九〇八〇円となる。

従って、所得金額および法人税額をそれぞれ右と同額と認定した本件更正決定(前記裁決により取消された部分を除く。)には違法な点はないものというべきである。

よって、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 落合威 裁判官 小田部米彦)

(別表)

<省略>

物件目録

一、物件一 (宅地)

長野市大字鶴賀字腰巻二、二五三番一五

宅地 二〇・一坪

一、物件二 (居宅)

右敷地 家屋番号権堂町二四三番二

二階建居宅 延二七坪

一、物件三 (宅地)

右同所同番一六

宅地 二〇・〇一坪

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